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古川吉重展残り1日です&絵画の「穴」についてのお話

3月15日は「古川吉重1921-2008」展の最終日です。古川吉重さんの作品世界はご堪能いただけたでしょうか。
長くニューヨークで活動した古川吉重という画家の一生、その追い求めたもの、辿りついた世界をぜひ会場でお楽しみください。

古川吉重「無題」1971年、個人蔵

古川吉重「無題」1971年、個人蔵

古川吉重「L14-2」1993年、個人蔵

古川吉重「L14-2」1993年

古川吉重「L12-6」1993年、個人蔵

古川吉重「L12-6」1993年、個人蔵

さて、今回も小ネタを一つご紹介します。「穴」についてです。

古川さんは自分を「画家」と任じた人だと思います。
ゴムシートや画布を縫い合わせた作品も彼にとっては「ペインティング」でした。
そんな古川さんの作品ですが、ところどころに興味深い「穴」が見え隠れします。
絵画に穿たれた「穴」。なかなか興味深い問題です。

いろんなタイプの「穴」があるのですが人気が高いのはこちらの「穴」でしょうか。

古川吉重「FIELD-12」1970年頃、個人蔵

古川吉重「FIELD-12」1970年頃、個人蔵

この「FIELD-12」には穴がありますが意外と気付かれなかったりもします。そして気付いたときの驚きが人気の秘密なのでしょう。
気付きにくいのには理由があって、カンバスの裏に厚紙がはりつけてあり、穴の向こう側が真っ暗闇になっているからです。だから、ただの黒い丸に見えるのです。
会場で散見される他の穴と比べてみると、それが意図的なものであるのは一目瞭然です。
「FIELD」シリーズを手がける前、1960年代後半、古川さんはオプ・アートの影響を思わせる錯視的効果を利用した作品を手がけていますが、「FIELD-12」の黒い丸に見える穴は、その錯視的効果への興味の延長上にあるといえるでしょう。
しかし、1960年代後半の古川さんの錯視的効果を利用した取り組みはあくまでカンバスの表面における色彩と形の組み合わせ終始していました。それが、「FIELD-12」では、その表面に穴があいてしまった。
穴が穿たれたカンバスは絵具の層をのせる面としての役割から逸脱していき、古川さんは次第にカンバスそのもの、あるいは支持体そのものを造形の対象として扱うことへの興味を深めていきます。
その流れは会場で確認していただくとして、「FIELD-12」の穴に戻りましょう。古川さんはこの時期の作品についてこんな言葉を残しています。「平面であることに飽き足らず、打抜き金具によって直接カンバスに小円の穴をあける。視覚は画面の背後に吸収される」。

「画面の背後」とは何なのか。「FIELD-12」においてはこの暗く先の見通せない穴の奥、ボイドと表現したくなるような空間なのでしょう。
一方で、もっと即物的な「画面の背後」を見せる穴が古川さんの後の作品にはあります(どの作品かは探してみてください)。
穴
「FIELD-12」よりも気付きにくいこの「穴」。この穴から除くのは、カンバスの骨組みとなる木材、そして壁です。
それらは「絵画」を支えるものであり、私たちが「絵画を見る」ときには隠されているもの、透明なもの(ないもの)として扱われるものでもあります。
(慣習的に、私たちが「絵画を見る」時に捉えているのは、額縁によって世界から切り取らたカンバスの表面にのった絵具が生み出す世界、ということもできると思います)
それら隠されていたものが開示されるとき、改めて、私たちは思うかも知れません。「絵画って何?」と。
とはいえ、古川さんが非常に理論的に、ある種攻撃的に、絵画の在り方を問いただすタイプの作家だったようには思えませんし、絵画の在り方を問いかけることがこの作品の根幹であるようにも思えません。
古川さんの作品を見渡し、古川さんの言葉を拾い集める限り、古川さんは終生画家であり、一途に「ペインティング(絵画/描くこと)」の世界に身をおいた人であったように思います。たとえ、ゴムシートと画布を縫い合わせた作品であってもです。そこには一歩一歩地道な造形的思索の跡は見えますが、存在基盤をひっくりかえそうとするような衝動はあまり感じられません。
ただし、古川さんの生きた時代は、ラディカルに絵画の在り方を問いただしていった時代でもありました。古川さんも無縁ではなかったでしょう。この「穴」はその証であるようにも思われます。
古川さんのとある「絵画」の見過ごされることも多い小さな「穴」は、絵画を支えるものを垣間見せるとともに、古川さんの生きた時代を覗かせているともいえるかもしれません。(藤本)

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