ただし月曜日が祝休日の場合は開館、翌火曜日が休館
(入館は17時30分まで)
( )内は20名以上の団体料金。
教職員が引率する小・中・高等学校・中等教育学校・特別支援学校の児童生徒は引率者を含めて無料。
*本展は九州のローカルな美術を楽しく深く紹介するシリーズ展「郷土の美術をみる・しる・まなぶ」の5回目にして特別編になります。大人と子どもがときには一緒に、ときには別々に美術と向き合う場と時間をつくり出します。会場ではおもてなしスタッフ「ハンズさん」が来場者を気さくにお迎えします。作品鑑賞のお手伝いをしたり、話し相手になったり、ちょっとしたクイズを出してみたり。ただし展覧会場での過ごし方は皆さん次第。ひとり静かに見るもよし、誰かと話しながら見るもよし、どうぞご自由にお楽しみください。
今年101歳を迎えた画家 江上茂雄氏は現在も風景画をつくっています。
明治45年 (1912)、福岡県山門郡瀬高町(現みやま市)に生まれて大牟田市に育ち、15歳で三井三池鉱業所建築課に入社しました。以後45年間会社員として勤めながら、江上氏はいわゆる「日曜画家」としてクレパス・クレヨン画を描きつづけます。描かれたのはもっぱら大牟田市近郊の風景や身近な眺めです。クレパス・クレヨンを紙の上に塗り重ねることで生まれた独特のマチエールが風景の広がりの中に親密さをもたらし、観る人を絵の中にやさしく誘います。絵には空から降る雪や海の波しぶき、空にそよぐ風までもとらえられています。
60歳で退職した江上氏は今も住む熊本県荒尾市に転居し、しばらくして水彩画に取り組むようになりました。描かれるのはこれまでと同じように地元周辺の風景ですが、制作方法はこれまでとは異なり、戸外での現場写生を開始するのです。しかも自宅を歩いて出かけては絵を1枚完成させて帰ってくるという繰り返しをほとんど毎日、およそ30年間も続けたと言いますから驚くほかありません。大体2,3時間で仕上げられるそれらの絵には、路傍に座り筆を重ねることで目の前の風景と一体化していく画家の心の震えが、イメージの揺らぎとともに定着されているかのようです。
ありふれた風景をありふれた画材でただひたすらに独り描きつづける。その非凡な持久力が絵の見た目の凡庸さの底を掘り抜き、ひとりの人間がいかに生きて在るのかという本当の意味での「個」性を絵から滲ませています。土に着き、自己を見つめ、世界に触れつづけた江上氏の「描く」という営みは、今に生きる私たちに希望の在りかについて示唆してくれるにちがいありません。
江上氏がこれまでに生み出した作品はクレパス・クレヨン画と水彩画を主に、他にも木版画、鉛筆画、実験的な即興絵画など多岐にわたり、総計は20,000枚にも及びといいます。この展覧会ではその中から約200点の作品・資料を選りすぐり展示することで、江上茂雄という人間の101年の道行きをご紹介します。