2016年1月24日
昭和23年(1948)の創刊からいまも続く雑誌『暮しの手帖』の表紙をめくると、変わらず綴られている言葉があります。
これはあなたの手帖です
いろいろのことが 書きつけてある
この中の どれか 一つ二つは
すぐ今日 あなたの暮しに役立ち
せめて どれか もう一つ二つは
すぐには役に立たないように見えても
やがて こころの底ふかく沈んで
いつか あなたの暮し方を変えてしまう
そんなふうな これは あなたの暮しの手帖です
初代編集長の花森安治(1911-78)によるこのメッセージのなかにある「手帖」という言葉を「工芸」に読み替えてみようというのが、今回のコレクション展「特集 あなたの暮らしのための工芸」に至った最初のアイデアです。
ところが「暮らしのための工芸」と聞いただけでは、なにか当たり前すぎて拍子抜けしてしまうかもしれません。工芸が暮らしの役に立つのは言わずもがなで、実用性を満たすものこそが優れた工芸だろうと。たしかにそうかもしれません。しかし、それが工芸のすべてではありません。使いにくいけれど使うたびにハッとさせられる器、大切な誰かの形見の着物、眺めているとあたたかい気持ちになる人形など。暮らしのなかで工芸がさまざまに働きかけてくることをあなたはちゃんと知っているはずです。
そして「やがて こころの底ふかく沈んで いつか あなたの暮し方を変えてしまう」工芸のかたちがあることにも気づいてもらえるとうれしく思います。
今回のコレクション展は、昨年度から始まった開館30周年記念 コレクション展連続企画の第4弾であり最終回です。福岡県立美術館が積極的に収集してきた工芸作品をご紹介するだけでなく、美術館の新たなあそび方を試してみたいと考え、企画しました。プロダクトデザインを手がける坂下和長さん(CRITIBA)といっしょに展覧会づくりを楽しむというのもそのひとつです。
あなたならどんなふうに展覧会や美術館をあそんでみますか。
担当学芸員 竹口浩司