【髙島野十郎展】担当学芸員による見どころ解説②
「新たな髙島野十郎展」について、担当学芸員による見どころ解説の第2回目をお届けします!本展覧会のひとつのメインとしてご紹介している、驚異の新発見作品である、もうひとつの《からすうり》(昭和10年作、個人蔵)についてです。新発見の《からすうり》の画像を公開するのも、このブログ記事がまったく初めてになります。展覧会においてはじめて並ぶ、2つの《からすうり》をぜひじっくりと観察してみてください!
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現在までに当館が調査した高島野十郎の作品総数は434点です。そして、いまも新たな野十郎の作品情報が入ってきます。近年寄せられた情報で、思いがけない作品として驚かされたひとつが前回ご紹介した《廃墟 横濱南京町》であり、もうひとつが昭和10年作の《からすうり》です。
野十郎の名品として知られた《からすうり》は、昭和49年の野十郎最後の個展で初出品され、没後のいずれの大回顧展でも、欠くことのできない代表作として紹介されてきました。
今回発見された《からすうり》は、画面の上部にサインがあり、カンバス裏面に「昭和十年秋」の書き込みがありました。昭和10年は、野十郎が3年間の欧州滞在を終えて久留米の実家に戻り、滞欧作品を博多の生田菓子舗で陳列した個展開催の年です。本作は久留米の実家の庭に建てた「椿柑竹工房」で描かれた作品と言えます。それを証言する資料が残されています。
彼の親族が椿柑竹工房を訪ねた折のアトリエの様子を書き留めたメモにこうあります。
「秋の頃、カラス瓜が壁につるされていた。壁につるされたカラス瓜と蔓は、もうしなびていたが、絵は活き活きと、まるでモデルとはちがって、絵の方が活きて、本物のような感じがした。」
メモに記された「カラス瓜」の作品が本作だと断定する証拠はありませんが、本作を見ていると「絵の方が活きて、本物のような感じがした」という感想は合点がいきます。この証言に該当するような作品が見つかるとは思ってもいませんでした。まさに奇跡のような発見です。
新発見の《からすうり》は、上部から紡錘型に広がりながら垂れ下がる構図で描かれ、従来の《からすうり》と一見すると同じに見えますが、新発見作のほうが壁の影やカラスウリの実の色調が濃く、筆致も躍動的です。実の集まりが従来作は下方にあるのに対して、新発見作は上方にあり、作品としての重心の違いが微妙な違いを見せています。このよう
に従来作とは違う魅力を新発見作は放っています。
ぜひ、皆さんの目で実際の作品をご覧ください。会期中はふたつの《からすうり》を並べて展示しています。(担当学芸員/西本匡伸)
髙島野十郎「からすうり」昭和10年、個人蔵 *今回発見された新たな作品です。
髙島野十郎「からすうり」昭和23年以降、個人蔵