風景画とならんで野十郎が生涯にわたって盛んに描いたのが、果実を主題にした静物画である。とくに本作でも取り上げられている洋梨やブドウは、リンゴとともに彼の好みとした対象であった。無地の壁を背景に、白布あるいは装飾的な模様が連なる布の上に、ときには壺や皿とともに対象を配置するのが、彼の流儀ともいえる構図である。本作では、主題となる果実は画面のほぼ中央に置かれ、左手前方向から当てられた光によって影が右後方に流れ、その結果奥行き感が増す効果を上げている。またこの光によって、陰影に富んだ濃密な色彩を生み出すことともなった。さらに果物や枯葉の輪郭線がくっきりと引かれて、対象の存在感をいっそう高めている。また手前にひとつ転がったブドウの粒は、横へと広がる構図に締まりを与える重要な役を担っている。このように、光と影が作る重厚な色彩と綿密な配置の構成によって、本作は強い印象を見る者の眼に与える。
(M.N)