高島野十郎「境内の桜」
Cherry Blossom in the Precincts

074「境内の桜」

高島野十郎「境内の桜」昭和30年、福岡県立美術館蔵

生涯独身であった野十郎は、身の気軽さも手伝って旅に出かけることが多かった。仏教に深い関心を寄せていた彼は、古寺や札所を巡る目的で、とくに京都や奈良、四国、また晩年には秩父の札所を訪れることが頻繁であった。そして旅先の景観や寺院が、絵の対象となることも少なくなかった。また桜の花も、絵の題材として彼の好みに適った対象で、たびたび絵の中心テーマとなって登場している。本作において描かれているのは、東京都世田谷区にある曹洞宗の寺院、豪徳寺の仏殿であると考えられる。仏教に深い関心を寄せる野十郎にとっては、寺院を絵に描くことは、仏の教えに従うことと同じであったのかもしれない。仏殿の右脇には、その枝ぶりの特調から「臥龍桜」と呼ばれ、江戸時代より親しまれてきたしだれ桜があり、野十郎はそれを写したものと考えられる。満開の桜はその花のひとつひとつに至るまで精緻に描きこまれ、妖艶な美しさを放っている。それとは対照的に、ほのぼのとした様子で描かれた3人の子どもたちは砂遊びに興じている。