福岡県立美術館
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郷土の美術をみる・しる・まなぶ 特別編

江上茂雄 ― 風ノ影、絵ノ奥ノ光

《切り通し 六月》  水彩|2005年 江上茂雄
《切り通し 六月》 水彩|2005年 江上茂雄

今年101歳を迎えた画家 江上茂雄氏は現在も風景画をつくっています。

明治45年 (1912)、福岡県山門郡瀬高町(現みやま市)に生まれて大牟田市に育ち、15歳で三井三池鉱業所建築課に入社しました。以後45年間会社員として勤めながら、江上氏はいわゆる「日曜画家」としてクレパス・クレヨン画を描きつづけます。描かれたのはもっぱら大牟田市近郊の風景や身近な眺めです。クレパス・クレヨンを紙の上に塗り重ねることで生まれた独特のマチエールが風景の広がりの中に親密さをもたらし、観る人を絵の中にやさしく誘います。絵には空から降る雪や海の波しぶき、空にそよぐ風までもとらえられています。

《べにいろの雲》クレヨン、1964年年前後
《べにいろの雲》クレヨン、1964年年前後

60歳で退職した江上氏は今も住む熊本県荒尾市に転居し、しばらくして水彩画に取り組むようになりました。描かれるのはこれまでと同じように地元周辺の風景ですが、制作方法はこれまでとは異なり、戸外での現場写生を開始するのです。しかも自宅を歩いて出かけては絵を1枚完成させて帰ってくるという繰り返しをほとんど毎日、およそ30年間も続けたと言いますから驚くほかありません。大体2,3時間で仕上げられるそれらの絵には、路傍に座り筆を重ねることで目の前の風景と一体化していく画家の心の震えが、イメージの揺らぎとともに定着されているかのようです。

《本村の小道》水彩、1994年12月
《本村の小道》水彩、1994年12月

ありふれた風景をありふれた画材でただひたすらに独り描きつづける。その非凡な持久力が絵の見た目の凡庸さの底を掘り抜き、ひとりの人間がいかに生きて在るのかという本当の意味での「個」性を絵から滲ませています。土に着き、自己を見つめ、世界に触れつづけた江上氏の「描く」という営みは、今に生きる私たちに希望の在りかについて示唆してくれるにちがいありません。

シリーズ『私の筑後路』より 木版画、制作年不明
シリーズ『私の筑後路』より 木版画、制作年不明
シリーズ『私の手と心の抄』より 水彩、クレパス、墨汁 制作年不明
シリーズ『私の手と心の抄』より 水彩、クレパス、墨汁 制作年不明

江上氏がこれまでに生み出した作品はクレパス・クレヨン画と水彩画を主に、他にも木版画、鉛筆画、実験的な即興絵画など多岐にわたり、総計は20,000枚にも及びといいます。この展覧会ではその中から約200点の作品・資料を選りすぐり展示することで、江上茂雄という人間の101年の道行きをご紹介します。

シリーズ『私の鎮魂花譜』 鉛筆、水彩 制作年不明
シリーズ『私の鎮魂花譜』 鉛筆、水彩 制作年不明
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