福岡県立美術館
Fukuoka Prefectural Museum of Art
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板谷 房「春」

板谷 房「春」昭和38年(1963)  油彩・画布 130.0×162.0㎝

福岡県糸島郡北崎村(現・福岡市西区)に生まれた板谷房(いたや ふさ/1923-1971)は、東京美術学校を卒業した翌年にフランスへ渡り、終生パリの地でパリジェンヌや動物を題材に、つややかで優美な線描と鮮麗な色彩を画面に盛り込んでロマンティックな画風を築きました。この間、親交を得た藤田嗣治と二人展「猫展」を開催したり、サロン・デ・ザルティスト・フランセ(ル・サロン)に出品を重ねて会員に選ばれ、フランス政府から芸術院賞も授与されています。

ル・サロンで受賞した本作でも、バラやコブシ等が咲き誇り、蝶が舞う春爛漫の野辺に、彩りも鮮やかな七面鳥、鶏、猫たちが集う、賑やかで幻想的な情景を見せています。
パリでは「東洋美術と西洋美術の十字路」の画家と評価され、また帰国時の個展紹介記事で「かれの絵の秘密はヨーロッパの古典絵画で使われた絵具と、繊細な貂の毛でできた日本の筆との結合にある」とも評されたように、日仏いずれの地でも、独特のエキゾチシズムが観る者を魅了しました。師事した藤田嗣治や東郷青児の影響を受けながら、ユニークな作風を展開した板谷ですが、本作はその強烈な個性の発露に適度な抑制が効いて狂騒と静寂が調和しており、彼の代表作の一つといえる魅力に満ちています。(魚里)

 

●ミニコラム:板谷房と北崎小学校
2017年12月から翌月まで、「特集:美術館は動物園!」と題したコレクション展を開催しました。本展を象徴する作品として、板谷房≪春≫をチラシに大きく図版掲載したところ、板谷の姪御さんが作家出身校の福岡市立北崎小学校へ紹介くださり、それを契機に、校長先生と6年生の皆さんが来館されました。
この見学に際して判明したのが、本展出品作家のうち、他に2人、彫刻家の津上昌平(1897-1977)と洋画家の寺田竹雄(1908-1993)も同校出身ということでした。3人に共通するのは海外を目指したこと。津上ははじめ船員を志し商船学校での欧州航路の実習中に西洋彫刻に触発されてその道へ転じ、寺田は県立中学修猷館を中退してアメリカへ渡り美術を学びました。旧・北崎村は大海が眼前に広がり、古くから交易で栄えた唐泊港もあります。広い外界へ歩み出そうとする意欲にあふれた地域だったのでしょうか。

なお、本展出品以外の収蔵作家で、日展を舞台に力強い男性像で活躍した彫刻家の大神崇維(1930-2002)も北崎小出身でした。全校児童数が現在約100人という比較的小規模な学校ながら、多くの美術家を輩出した歴史を偶然知り、本展の思わぬ成果に感銘を覚えたものでした。(魚里)

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